運賃の変遷

 渋谷〜玉川間の運賃は、開通した1907年には15銭、廃止された1969年には20円でした。
 玉電の運賃は長らく区間制とされており、初めて全線均一運賃が採用されたのは戦争末期の1945年5月でした。その後区間制に戻された時期もありましたが、最終的には均一運賃に戻され、現在の世田谷線にも引き継がれています。
 また、1945年4月に小児運賃が廃止され、戦後長らく小児運賃のない状態が続きました。世田谷線に移行されてもしばらく設定されず、1977年6月にようやく復活しています。なお、砧線は1945年10月以降、鉄道線に準じた運賃体系とされたことから、路線廃止まで小児運賃が設定されていたようです。
 乗車券の種類は、1910年の記録によれば普通券(片道・往復)、軍人用特種券(片道・往復)、回数券(30回券・50回券)、定期券(1ヶ月以上往復・6ヶ月以上往復)、団体乗車券が設定されていました。1934年の「旅客運送規則」によれば普通乗車券(片道乗車券・往復乗車券)、定期乗車券(通学定期乗車券1ヶ月、3ヶ月)、回数乗車券(定期記名回数乗車券50回40日、100回80日・普通無記名回数乗車券30回、50回)、団体乗車券、貸切乗車券に変化しており、定期券が通学用に限定されているのが特筆できます。1935年に定期記名回数乗車券が廃止され、普通定期乗車券の発売が開始されました。なお、開通当時から発売されていた回数乗車券は、2023年2月に一部の特殊割引用を除いて廃止されました。
 貨物運賃は、1910年の記録によれば貸切扱貨物運賃、通常斤扱貨物運賃の2種類がありましたが、1924年の記録によれば小荷物扱(種類遠近不拘)、小口斤扱(種類不拘)、貸切扱(種類不拘)、特種扱(犬・小動物・自転車・自働自転車・乳母車・人力車・荷車)の4種類に増えています。1939年に貨物輸送が廃止されると小荷物扱だけが残りました。
 玉電は路面電車では珍しく、国鉄や社線との連絡運輸が実施されていました。玉電時代から京王電気軌道などとの連帯運輸(後の連絡運輸)が締結されており、東京横浜電鉄との合併後には省線との連帯運輸も開始されています。1966年3月版の国鉄「停車場一覧」には連絡社線として玉川線の全停留場に事務管コードが付与されており、国鉄と渋谷接続玉川線各停留場の相互間で連絡運輸が続いていたことがわかります。玉川線廃止時のリーフレットによれば、国鉄や社線との連絡運輸は世田谷線の移行とともに廃止され、郊外電車の名残の一つが姿を消しました。2012年に導入された世田谷線PASMO定期券ではバス定期券の機能が準用されるようになり、かつては連絡運輸が行われていたことを考えると隔世の感があります。

年表

 玉電歴史年表世田谷線データベースから運賃関係の出来事を抜粋しています。


  • 渋谷〜玉川間の旅客運賃認可を取得

    区間制で1区3銭で全線15銭とされた。運賃境界は大橋、三軒茶屋、駒沢、用賀に設定された。


  • 運賃改定を実施(1区間4銭)

    区間制で1区間4銭で全線25銭とされた。運賃境界は渋谷町役場前(中目黒線は恵比寿駅前)、渋谷、大橋、三軒茶屋、駒沢、用賀、玉川、世田谷、山下に設定された。


  • 京王電気軌道・八王子市街自動車と連帯運輸を締結


  • 軌道運輸規程の改正に伴い小児・小児団体旅客の運賃変更を申請

    軌道運輸規程に、市街地内を走る軌道と均一運賃制である場合を除き、12歳未満の小児で無賃扱いとならない場合は、大人運賃の半額を収受するとの条文が追加され、小児運賃が設定された。


  • 小児賃金制実施を届出


  • 東横百貨店前〜天現寺橋間、渋谷橋〜中目黒間を東京市に経営委託

    陸上交通事業調整法に基づく措置。すでに1937年7月から東京市電の車両を借用して運行していた。


  • 玉川線渋谷接続での省線との連帯運輸開始

    玉川線側の連帯運輸範囲は渋谷接続で、大橋、三軒茶屋、玉電中里、駒沢、用賀、よみうり遊園、西太子堂、玉電若林、松陰神社前、世田谷、玉電山下、下高井戸の各停留場と省線各駅の相互間とされた。当初の発売券種は定期乗車券に限られていたが、1940年12月1日からは普通乗車券、手荷物、小荷物に広げられた。


  • 運賃改定を実施(1区間5銭)

    区間制で1区間5銭で全線25銭とされた。運賃境界は玉電池尻、上馬、桜新町、二子読売園、玉電若林、豪徳寺前に設定された。


  • 運賃改定を実施(1区間10銭)

    区間制で1区間10銭とされ、小児運賃が廃止された。運賃境界は三軒茶屋、桜新町、二子玉川、豪徳寺前に設定された。


  • 運賃改定を実施(20銭均一)


  • 二子玉川〜砧間、二子玉川〜溝ノ口間を軌道法から地方鉄道法に変更して運行開始

    二子玉川〜砧間は鉄道線としての運行開始にあたり砧線と呼称された。玉川線とは運賃体系が分離され、スタフ閉塞による運転となったが、従来通り玉川線の車両が使用された。


  • 運賃改定を実施(40銭均一乗切制)

    砧線との相互間発着の場合は50銭の特定運賃が設定された。


  • 運賃改定を実施(60銭均一乗切制)

    砧線との相互間発着の場合は80銭の特定運賃が設定された。


  • 運賃改定を実施(1区間1円)

    乗切制で1区間1円とされた。砧線との特定運賃は廃止された。運賃境界は三軒茶屋に設定された。


  • 運賃改定を実施(2円均一乗切制)


  • 運賃改定を実施(3円50銭均一乗切制)


  • 運賃改定を実施(7円均一乗切制)


  • 運賃改定を実施(8円均一乗切制)


  • 運賃改定を実施(10円均一乗切制)


  • 運賃改定を実施(1区間10円)

    区間制で1区間10円、2区間15円とされた。運賃境界は三軒茶屋に設定された。


  • 運賃改定を実施(13円均一)

    片道13円、往復25円均一とされ、二子玉川園方面と下高井戸方面の相互間発着の際には乗継券が発行された。また初電から朝6時までは往復20円となる早朝往復割引が設定された。


  • 運賃改定を実施(20円均一)

    二子玉川園方面と下高井戸方面の相互間発着の際には乗継券が発行された。なお往復運賃は廃止された。


  • 運賃改定を実施(40円均一)

    世田谷線改称後初めての運賃改定が実施され、普通旅客運賃は20円から40円に改定されたが、12月31日までは暫定的に30円とされた。運賃改定は玉電時代の1966年1月20日以来8年半ぶり。


  • 運賃改定を実施(70円均一)

    普通旅客運賃は40円から70円に改定されたが、1976年3月31日までは暫定的に60円とされた。運賃改定は1974年7月以来1年半ぶり。


  • 運賃改定を実施(大人90円均一)

    普通旅客運賃は大人70円から90円、小児40円から50円に改定された。運賃改定は1975年12月以来3年ぶり。


  • 運賃改定を実施(大人100円均一)

    普通旅客運賃は大人90円から100円に改定、小児は50円に据え置かれた。運賃改定は1979年1月以来2年ぶり。


  • 運賃改定を実施(大人110円均一)

    普通旅客運賃は大人100円から110円、小児50円から60円に改定された。運賃改定は1981年5月以来3年ぶり。


  • 運賃改定を実施(大人120円均一)

    普通旅客運賃は大人110円から120円に改定、小児は60円に据え置かれた。運賃改定は1984年1月以来8年ぶり。


  • 運賃改定を実施(大人130円均一)

    普通旅客運賃は大人120円から130円、小児60円から70円に改定された。運賃改定は1991年11月以来4年ぶり。


  • ICカード乗車券「せたまる(回数券・定期券)」が発売・運用開始

    世田谷線独自のICカード乗車券で、東急線では初めての導入となった。
    「せたまる」の命名についてプレスリリースで「世田谷区を走る世田谷線の『せた』と、ご利用のお客様に便利なカードとして○をいただけるようにとせたまるの名称を付けました」とされた。


  • 運賃改定を実施(大人140円均一)

    普通旅客運賃は大人130円から140円に改定、小児は70円に据え置かれた。「世田谷線散策きっぷ」は大人300円から320円に、大人の通勤定期券は1か月4,770円から5,140円に改定された。運賃改定は1995年9月以来10年ぶり。


  • ICカード乗車券「PASMO」が運用開始

    従来の「せたまる(回数券・定期券)」の発売が継続されたため、サービス開始時にはチャージによる乗車のみ取扱い、世田谷線ではPASMO定期券やPASMOへのチャージを取り扱わなかった。JR東日本の「Suica」も相互利用ができたが、同じくチャージによる乗車のみ取り扱った。


  • ICカード乗車券「せたまる回数券」車内での入金の取扱い終了

    引き続き駅(三軒茶屋・上町・下高井戸駅の券売機、田園都市線三軒茶屋駅定期券うりば)では同年3月16日まで入金が可能だった。


  • ICカード乗車券「せたまる(回数券・定期券)」が発売終了、「せたまる回数券」への入金の取扱い終了

    「せたまる回数券」の入金は、同年2月3日以降は駅(三軒茶屋・上町・下高井戸駅の券売機、田園都市線三軒茶屋駅定期券うりば)のみでの取扱いとなっていた。発売終了後も発行済みの「せたまる(回数券・定期券)」は同年9月30日まで引き続き使用が可能だった。


  • 「世田谷線PASMO定期券」が発売開始

    前日3月16日をもって取扱い終了となった「せたまる(回数券・定期券)」に替わって発売開始された。また「せたまる回数券」の代替として、ICカードのチャージによる乗車時に「特典バスチケット」が付与される「バス利用特典サービス」が導入された。


  • ICカード乗車券「せたまる(回数券・定期券)」が運用終了

    IC乗車券「せたまる(回数券・定期券)」の発売、「せたまる回数券」の入金は同年3月16日をもってすでに終了していた。


  • 運賃改定を実施(大人現金150円・IC144円均一)

    消費税率8%への引上げに伴う運賃改定で、普通旅客運賃は現金で乗車した場合の10円単位運賃とICカードで乗車した場合の1円単位運賃が初めて設定され、10円単位運賃は大人140円から150円、小児70円から80円に改定、1円単位運賃は大人144円、小児72円に設定された。「世田谷線散策きっぷ」は大人320円から330円に、大人の通勤定期券は1か月5,140円から5,290円に改定された。運賃改定は2005年3月以来9年ぶり。


  • 運賃改定を実施(大人現金150円・IC147円均一)

    消費税率10%への引上げに伴う運賃改定で、普通旅客運賃のうち現金で乗車した場合の10円単位運賃は大人150円、小児80円で据え置かれたが、ICカードで乗車した場合の1円単位運賃は大人144円から147円、小児72円から73円に改定された。「世田谷線散策きっぷ」は大人330円から340円に、大人の通勤定期券は1か月5,290円から5,390円に改定された。運賃改定は2014年4月以来5年半ぶり。


  • 「普通回数乗車券」「時差回数乗車券」「土・休日割引回数乗車券」が発売終了

    世田谷線の回数乗車券は従来有効期間が設定されていなかったことから、発売終了10年後の2033年2月28日まで利用可能された。ただし運賃改定による不足額は現金で支払う必要がある。なお「通学用割引普通回数券」は引き続き発売される。


  • 運賃改定を実施(大人現金・IC160円均一)

    普通旅客運賃のうち現金で乗車した場合の10円単位運賃は大人150円から160円に改定、小児は80円で据え置かれた。ICカードで乗車した場合の1円単位運賃は大人147円から160円、小児73円から80円に改定されたため、現金とICカードで運賃は同額となった。「世田谷線散策きっぷ」は大人340円から360円に、大人の通勤定期券は1か月5,390円から6,140円に改定された。運賃改定は2019年10月以来3年半ぶり。